ビジネスに必須のマナーの一つに「名刺交換」があります。社会人としてマスターしておきたいマナーですが、きちんと学ぶ機会は意外に少ないのではないでしょうか。
ビジネスマンにとって名刺は「顔」のようなものであり、自分を売り込む第一歩となります。この大事な名刺交換というビジネスマナーの正しいやり方を基本からイレギュラー時の対応までわかりやすく紹介していきます。
名刺の役割
名刺には、氏名のほかに、社名や部署、肩書、連絡先といった、持ち主の大切な情報が記載されています。そのため、名刺はビジネスマンにとって「顔」のようなもであり、丁寧に扱うことが基本です。
その名刺の役割は、主に以下の7つです。
- 身分証明書(社会的信用となり所属や立ち位置を明らかにしてくれる)
- 挨拶の一部
- 自分を知ってもらうためのコミュニケーションツール
- 相手と打ち解けるためのきっかけ作りのツール
- 人脈を作るためのツール
- 次のアクションを起こしてもらうきっかけをつくるためのツール
- 会社・商品・サービス・人を知ってもらうためのツール
それでは、名刺の役割をはたせるよう名刺交換のマナーを解説していきます。
名刺交換の手順
名刺交換の正しいやり方は、大きく分けて4つのステップに分けられます。
1.名刺の準備
名刺交換をスムーズに行うためには、事前準備が大切です。挨拶する相手を前にもたついてしまうと、心証も良くありません。あらかじめ名刺入れを手元に用意しておき、すぐに名刺を取り出せるように名刺入れのフラップの内側に自分の名刺を挟んで準備します。
立って名刺交換を行えるようにしておきます。
名刺入れをおへその辺りで持ちスタンバイします。
交換する順番としては、目下あるいは訪問者の方から相手に近づき、先に名刺を出します。
2.名刺を渡す
名刺を渡す際は、相手が読みやすい向きにした名刺を名刺入れの上に乗せ、両手で持ちながら差し出します。相手に差し出すタイミングで、社名や部署、氏名を名乗りましょう。
なお、相手が差し出した名刺よりも低い位置から自分の名刺を差し出すことで、より謙虚で丁寧な印象を与えることができます。この際、気を付けたい基本動作は下記のとおりです。
立って行う 名刺交換は必ず正面に立って行います。座って待っていた場合でも相手の姿が見えたらすぐに立ち上があって出迎えましょう。
机の上では行わない 名刺交換は基本的に机の上では行いません。机を挟んだ会議室で名刺交換をする際も、机の横に移動してから相手の正面で交換するのがマナーとされています。
ただし、会議室が狭く名刺交換するスペースがない場合など、相手から机の上での名刺交換が求められるケースがあります。そのような際は、無理やり机の横に移動するのではなく、「机の上からすみません」と一言断るといいでしょう。
目下の人(訪問者)から先に渡す
名刺交換は、訪問者が先に差し出すのがマナーです。もし、上司が同行している場合には、上司に先にやり取りをしてもらいます。相手が複数の場合は、役職の高い人から順番にやり取りをするようにしましょう。
3.名刺を受け取る
名刺を受け取る際の基本は、渡すときと同様、両手で扱うことが望ましいのですが、名刺交換のタイミングによっては、渡すことと受け取ることを同時に行わなければならない場合もあります。このようなときは、右手で自分の名刺を差し出し、左手で相手の名刺を受け取るようにします。なお、受け取った相手の名刺は、すぐに右手を添え、両手で持つようにしましょう。そして、名刺を受け取ったら、「頂戴いたします」と感謝の意を伝えます。
この際、気を付けたい基本動作は下記のとおりです。
両手で受け取る
同時交換を行う場合を除いて基本的に名刺は両手で受け取りましょう。
相手の名刺を自分の名刺入れを受け皿にして、両手で丁寧に受け取ります。
※相手の名刺が縦型の場合は、自分の名刺入れも縦向きにします。
同時交換を行う場合には、片手で受け取っても問題ありません。
このときは左手で名刺を受け取ります。。受け取ったら、すぐに右手を添えるようにします。
ロゴや氏名に指がかからないようにする
受け取るときに相手の名刺を持つ位置に気をつける必要があります。相手の会社のロゴや氏名などは避け、余白部分を持つようにしましょう。
企業のロゴや氏名に指をかけてしまうと、相手を軽んじている印象を与える可能性があります。
名前をチェック
名刺を受け取ったら、まずは相手の名前をチェックします。「〇〇様ですね」と読み上げて間違いがないか確認しましょう。
漢字や読み方が分からない場合は、「どのようにお読みすればよろしいでしょうか?」と相手に聞き、その後に読み間違えないようにすることが大事です。
相手に読み方の確認をするのはマナー違反ではありませんが、その場で名刺に読み方をメモするのはNGです。後でノートなどにメモしておきましょう。
また受け取った名刺は胸の高さよりも下げないように注意する必要もあります。
4.名刺交換をした後
交換後の名刺の扱いにも、注意が必要です。すぐにしまわず、商談や打ち合わせ中でも、名刺入れの上に乗せる形で、机の上などに自分から見て左側に置くのが基本です。もし、複数人が参加しており、手元に複数枚の名刺がある場合は、相手の座った席順に合わせて並べるようにしておくと、氏名を覚えやすくなります。その際は、必ずしも名刺入れの上に乗せておく必要はありませんが、相手の中で最も上の立場である人が分かる場合は、その人の名刺を名刺入れの上に乗せるようにしておきます。立っている場合は、名刺入れを持ち、その上に相手の名刺を置いたまま会話を続けるようにします。
名刺に直接メモを書き込んでしまうのも避けたいマナー違反です。名前の読み方なども自分のメモに記載するようにします。
- 複数の名刺があるときは1列に並べる
複数の名刺がある場合、すべて重ねて置くのはNGで、テーブルに1列に並べて置くようにします。相手の座る順番に従って名刺を置いていき、もっとも立場が上の相手の名刺を名刺入れの上に置くと良いです。 - 頂いた名刺をしまうタイミング
相手が名前を覚えてくれたら名刺をしまってもOKですが、基本的には相手のタイミングに合わせることをおすすめします。
名刺を名刺入れに入れるのは、会話を切りあげる、会議やミーティングが終わりに差し掛かっているというサインです。また、資料をテーブル一面に広げなければならないときは「汚すといけないのでしまわせていただきます」と一言断ってから名刺入れに入れるのがベターです。
名刺交換前に気を付けたいマナー
汚れた名刺、折れた名刺は使わない
名刺は自身を表す身分証明書のようなものです。そのため名刺が汚れていたり、折れていたりすると「名刺すら管理できない人」「新人教育のできていない会社」という印象を与えてしまいます。また相手は「取引しても自分達の案件も、名刺のように雑に扱われるかも」と取引に対し消極的になるかもしれません。
忘れがち!名刺交換の前には身だしなみを整えよう
名刺交換の前には、まず自分自身の身だしなみをチェックしておきましょう。冒頭でもご紹介したように、どんなにあなたの人柄が素敵でも、見た目による第一印象が悪ければビジネスは上手くいくものも上手くいきませんよね。。服装だけでなく、髪型やメイクの状態もチェックし、相手に清潔感を与えられるかを再確認しておくことが大切です。名刺交換時には相手に自分の手元を見られることになります。袖口の汚れ、手のかさつき、ささくれ、爪の長さなどもチェックしておきましょう。
名刺の補充は忘れずに
名刺交換をする瞬間になって「名刺の補充を忘れていた」ということがないよう、常に名刺を補充し持ち歩くことを意識しましょう。
名刺交換でやってしまいがちなNG行為
ポケットや財布から直接名刺を出す
名刺切れにならないように、ポケットや財布に予備の名刺を入れておくケースがあるかもしれません。しかしその際、そのままポケットや財布から直接名刺を出して相手に渡す行為は、あまり良い印象を持たれません。ポケットや財布は名刺以外にもさまざまな物を出し入れする場所。特に、財布にお金といっしょに入れている場合は、不潔に思われてしまうこともあるでしょう。予備の名刺を使用する際は、相手の目の前でポケットや財布から取り出すのではなく、事前に名刺入れに移してから名刺交換することをおすすめします。また、名刺入れをズボンなどの後ろポケットに入れておくと、名刺入れごと変形し、名刺が折れてしまうこともあります。折れた状態の名刺を差し出すことも失礼にあたりますので、名刺入れの中身は定期的に確認するなどメンテナンスを忘れないようにしましょう。
名刺を忘れてしまったら
肝心な名刺を、忘れてしまうこともあるかもしれません。その際は、正直に忘れたことを伝えるのではなく、「あいにく名刺を切らしておりまして…」と一言謝罪してから、口頭で自分の氏名や部署名などを伝えます。そして帰社後に、郵送するなどの対応をしておくと、より丁寧です。
名刺入れにも配慮する
名刺交換の際、名刺入れは想像以上に相手の目に留まります。汚く黒ずんでいる名刺入れや、ほつれや傷が多い名刺入れを使用していると、だらしない人物といった姿に映ってしまう可能性があります。
信頼される社会人になるためにも、名刺入れが古くなった場合は新しい物に買い替えたり、修理に出したりするよう心掛けておきましょう。
名刺で手遊びする
手元に紙などがあると、ついつい手遊びしてしまうという人は要注意です。受け取った名刺を折り曲げたりしては相手に失礼にあたります。名刺交換後や会話中はむやみに名刺をさわらず、机の上に置いておくようにしましょう。
もらった名刺を忘れて帰る
もらった名刺を忘れて帰るのもNGです。名刺をもらった直後に忘れて帰ってしまっては、情報管理ができない人物だとみなされ、信用を失いかねません。また、相手から頂戴した物を持ち帰らないというのは、単純に失礼です。
新社会人のうちは訪問に慣れず、つい焦って場を後にしてしまうこともあるかもしれませんが、名刺を含めて忘れ物をしないよう、帰り際には机の上や周りを確認するようにしましょう。
話したことをその場で受け取った名刺に書き込む
相手の人柄や、商談で話した内容などを名刺にメモしたくなるかもしれませんが、名刺に書き込むことはNGです。商談後など、相手のいない場所で書き込むのはOKですので、相手がいる場所では他のものにメモをしましょう
イレギュラー時の対応 こんなときどうする?
名刺交換のタイミングを逃した
名刺交換のタイミングを逃してしまった場合は、話の途中で名刺交換を促すのではなく、帰り際に声をかけるのがベストです。「恐れ入りますが、名刺を頂戴できますでしょうか?」と声をかけ、自分の名刺を差し出すのがマナーです。
役職の高い相手から先に名刺を出された
役職の高い相手から、先に名刺を出されてしまった場合は、「頂戴します」と一旦受け取ります。その後「大変失礼しました。申し遅れました。〇〇社の~」と一言添えて、自分の名刺を出しましょう。
相手が名刺を出してくれない
相手が名刺を出してくれない場合は、2つのパターンが考えられます。
- 単に名刺交換を忘れてしまっている
- 信用できない相手として名刺を渡さないようにしている
単に名刺交換を忘れている場合は、商談中ではなく、帰り際に声をかければ、名刺をいただくことは可能です。対して、飛び込み営業などで、信頼関係が構築できていない場合は、相手が故意に名刺を渡さないということも考えられます。帰り際に声をかけ、それでも名刺を出してくれない場合は、あまりしつこくせずに「失礼いたしました」と催促しないのがマナーです。
相手が名刺を差し出すのに手間取っている場合
相手が名刺を差し出す準備ができていない場合は、相手の準備が整うまでは、こちらも名刺を差し出さずに待機しておくようにしましょう。相手を焦らさないための配慮です。
名刺の同時交換
名刺交換の際に起こりがちなのが、「自分が先に名刺を受け取ると、相手を目下とみていることになってしまう」という考えから、なかなかお互いが名刺を受け取らないという状況になってしまうことです。
それを避けるため、最近では名刺を同時に交換するほうが主流となってきました。
目上・目下の関係にとらわれて名刺交換が滞らないよう、最近は同時に交換するケースも増えています。あわてずに名刺入れを受け皿として受け取るのがよいでしょう。同時交換の方法については、以下のとおりです。
- 自分の胸の高さで、名刺入れを下に置きながら両手で名刺を持つ。
- 右手を使って自分の名刺を差し出し、相手の名刺入れの上に置く。
- 2と同時に自分の名刺入れに置くように、左手で名刺を受け取る。
- 相手が左手でこちらの名刺を受け取ったら、相手の名刺に右手を添える。
- 相手の名刺を両手で持ちながら、自分の胸の前へと引き寄せる。
名刺交換の順番
名刺交換には、さまざまな順番が存在します。相手と自分の1対1の場合は、立場が下の人(訪問した側)から先に、複数人の場合は、役職が上の人から順に行います。
- 立場が下の人から上の人へ渡す
名刺交換をする際は、基本的には立場が下の人(訪問した側)から先に渡すのが理想的です。そのため、訪問先では、自分から進み出て名刺交換をするようにしましょう。また、相手が複数人だった場合は、その中でより役職の高い人から順に名刺を渡していきます。
もしも、相手の立場や関係性が不明瞭で、誰から先に渡せば良いのか判断しかねるときも、心配する必要はありません。相手側も、一番上の立場の人間が最初に名刺交換をするという前提で動いています。こちらが進み出れば、自然と上司の立場の人が進み出てきてくれるはずなので、その人と交換するようにすれば問題ありません。 - 複数人で訪問する場合は上司から先に名刺交換する
複数人で訪問する場合は、役職が上の人から順に名刺を渡すようにします。例えば、自分と上司で相手先を訪問した場合、上司から名刺交換をします。相手も複数人だった場合は、お互いの上司同士で名刺交換をスタートします。次に自分と相手側の上司、次いで自分側の上司と相手の担当者、自分と相手の担当者の順で名刺交換をしていきます。
それでは、図を使用して説明いたしましょう。
1対1の場合の名刺交換の順序
相手と自分の1対1の場合は、立場が下の人(訪問した側)から先に行います。
注意点
訪問先もしくは立場が上の相手から先に名刺を渡された場合は、あせって相手に渡そうとするのではなく、まずは相手の名刺を受け取った上で、改めて自分の名刺を用意し、「申し遅れました」の一言を添えて名刺を渡すようにしましょう。
複数人の場合の名刺交換の順序
自社から複数人の訪問時に相手側が一人の場合の名刺交換の順序
1番目(図の①と②)
訪問時には、上司から相手側の担当者に向けて名刺交換を行う。
2番目(図の③と④)
次に自分から訪問先の担当者に向けて名刺交換を行う。
自社から複数人の訪問時に相手側が複数人の場合の名刺交換の順序
自社から複数人、相手側も複数人の場合の考え方は、訪問先の一番上の役職の方に対して自社の一番上の役職のものから順に名刺交換を行う。
その次に訪問先の2番目の役職の方に対し自社の一番上のものから順に名刺交換を行う。何人になろうとこの繰り返しで行うのが基本的なマナーとなります。
1番目(図の①と②)
訪問時には、上司から相手側の役職が一番上の人に名刺交換を行う。
2番目(図の③と④)
次に自分から訪問先の上司に向けて名刺交換を行う。
3番目(図の⑤と⑥)
自社の上司から訪問先の担当者に向けて名刺交換を行う。
4番目(図の⑦と⑧)
最後に自分から訪問先の担当者に向けて名刺交換を行う。
名刺交換後の管理方法
受け取った名刺は必要な時にいつでも参照できるよう、名刺フォルダなどにまとめて保管しましょう。
この時、日付や話し合った内容、相手の特徴などのメモ書きを裏側や空白部分に入れておくことで、見直したときに相手の特徴をすぐに思い出すことができ、仕事の効率化につながります。時間が経過すると話し合いの内容や相手の特徴などの記憶も薄れてしまうので、打合せ直後や帰社直後など、なるべく早いタイミングにメモをしておきましょう。
不要になった名刺はシュレッダーへ
名刺は個人情報が記載されているため処分する際はシュレッダーで細かく裁断し、個人情報が特定されないようにしましょう。個人情報漏えいにつながるため名刺のコピーを取っていた場合も、同様にゴミ箱にそのまま捨てないようにしましょう。
まとめ
名刺交換の基本マナーを読んでいただきありがとうございます。あなたが名刺交換の基本マナーをマスターし、ビジネスの成功への第一歩を進まれることをお祈りしております。万一、マナーを忘れたときも名刺は、相手の顔であり分身であることを念頭に大切に扱うことを心掛けてください。そうすれば、大きな失敗にはなりません。まずは、相手の名刺を大切に扱い、名前と顔を覚えることから始めましょう。これがビジネスマナーの第一歩となり成功への近道です。